
序章
おぎゃあ――
おぎゃあ――
周りが騒がしい。
どうやらここは病院のようだ。
俺は生まれたての赤ちゃん。
おぎゃあ――
おぎゃあ――
「ちっ」
思わず舌打ちをする。
もう少し上品に泣けないのか。
俺ならこう泣く。
「うっ…ぐす…夏子ぉ…」
存在もしていない恋人、夏子のことを想って泣く。
なぜなら俺は意識高い系赤ちゃんだからだ。
夏子って誰だよ。
思えば、この世に生を受けた時から意識が高かった。
生まれた瞬間「天上天下、唯我独尊」って言いそうになったくらいだ。
でもブッダがもうすでに言っていたのでやめた。
だから俺はこう言った。
「あ、すいやせん、へへっ、生まれやしたへへっ」
ってね。
【獅子は兎を狩るにも全力を尽くす】
という言葉がある。
最初に油断させておくにこしたことはないだろう。
と思ったが、俺は別室に隔離された。
母親がやってきた。どこかに電話をかけているようだ。
「ええ…ええ…とにかく変なんです。
何と言ったら良いかええと…卑屈なんです。
待ってください!話を聞いてください!あっ!」
電話を切られたようだ。
どこにかけていたのだろう?
「はぁ…」
大きなため息だ。
よほどつらい事でもあったのだろう。
ここは俺が一肌脱ぐことにした。
「へへっ、元気出すでやんす、へへっ」
と言うと、食い気味で「いやあんたが原因」と返ってきた。
ついでに『へへっ』って笑い方も可愛くないのよ、とディスられた。
不思議と嫌な気持ちではなかった。
なんで卑屈なのよ、というかなんで生後すぐ喋るのよ、
私のDNAにエイリアンの遺伝子でも混ざってんの?
寝てる間に遺伝子操作されたのかな、
ちくしょう一生ミステリーサークルでも作ってろよ。
母親の苦悩はすべて声に出ていた。
そして怒りの矛先がだんだんと異星人へと向かって行った。
しかしこうなった原因は異星人のせいではない。
俺が、意識高い系赤ちゃんだからだ。
………
……
…
なにこれ。
絶対拡散しないでください。
おやすみなさい。